お菓子の作り方レシピ

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まんじゅうこわい

「まんじゅうこわい」


まんじゅうこわいは、落語の噺の一つ。落語の中では「寿限無」や「目黒のさんま」に並ぶ有名な噺。
笑府からの引用と思われる。


東京では前座噺の一つに数えられるが、5代目柳家小さん・3代目桂三木助の得意演目でもあり、
上方では6代目笑福亭松鶴の十八番の一つであった。


出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』


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まんじゅうこわい


 蝉の声がまだ聞こえぬ平穏な初夏の頃、若い男たちがただ暇をもてあましていた。

「暇じゃのう」

「祭りはまだか。暇で暇でたまらん」

「剣の稽古でもしてはどうだ? 良い汗をかけるぞ」

「汗などかきとうないわ」

「何か面白いことはないのか」

 年の頃は20代といったところ。死んだ魚のような目で彼らはあぐらを組む。

 一人だけ一番やわらかい座布団に座って胸元をあらわにしていた。

「怪奇談とかどうじゃ?」

「やめろやめろ、夜寝られなくなる」

「なんじゃ、男のくせになさけないのう」

 胸元をあらわにしていた男はどうやらこの家の主のようで

えらそうに男を語る。

「じゃあ怖いものの話ならどうだ」

「まぁそれならええが」

 たいていこういう話になるときは、ひとりふたりは

怖いものが苦手なやつがいる。

 怖がるのを見て楽しむのだ。見られる側としては

たまったものではないのだが。

「わしは蛇じゃの。うねうねとして気色悪いわ、何より毒がある」

「俺は蜘蛛がだめだ。あの八本の足、まだらな体の模様、全身を覆う毛に

気味の悪い目、極めつけはあの巣だ。顔や手についた日には

川に飛び込むぞ」

「俺は蟻だな。蛇や蜘蛛は斬ってしまえばいいが、蟻はそうもいかん。

はらってもはらっても次から次から出てきてやつらは一体何匹いるのか。

この前も枇杷(びわ)の皮を剥いたら黒くてでかい蟻がでてきてな。

思わずそれまで食べてた枇杷を吐き出してしまったわ」

 おのおのが自ら怖いと思っているものを話しては振るえ

見ては笑っている。

「お前は何が怖い?」

 ただ一人、その話を聞いてるだけで、何か怖いのか話していない

男がいた。

 この家の主だった。

「いい若いもんがくだらないものを怖がるとは情けない。

世の中に怖いものなぞあるものか」

 話しかけられた男は嘲笑して茶をすする。

「そんなわけはないだろう。蛇や蜘蛛を見たことないわけではあるまい。」

「ふん、くだらぬ。所詮は生き物ではないか。それのどこが怖いというのだ」

「おまえも蟻が怖いんだな。仲間だ仲間だ」

「蟲など論外だ。視界にすら入らぬ」

「貴様本当に怖いものはないと言うのか」

「ないものはない!」

 嘲笑もどこへやら、ついには怒り出してしまった。

 だがそれはほかの連中らも同じ。

「ないわけはないだろう!」

 執拗なほどに怖いものは何かと聞かれてついに男は

「実はある」

と、言い出したのだ。

それ見たことかと男たちは満足げに彼の顔を見入る。

「饅頭が怖い」

「まんじゅう? なんだって饅頭が怖いのだ」

饅頭といえば菓子だ。鯖(さば)ならまだ蕁麻疹(じんましん)などの食あたりがあるが

饅頭で食あたりなど皆聞いたことがなかった。

「饅頭の話をしてるだけで気分が悪くなった。」

 男はそう言うと、隣の部屋に入り戸をしめてしまった。



 残された男たちはひそひそと話しあう。

「いけすかん」

「まったくじゃ。怖いものはないと言うておきながら

饅頭が怖いとはわけがわからぬ」

「まったく気に入らぬ。こうなったらやつを目一杯怖がらせてやろうぞ」

 懐からわずかなお金を出し、みんなに目配せする。

 するとほかの連中らも金を出し

「しこたま饅頭を買ってこよう」

饅頭を買いに行くのであった。



 半刻もせず買い物は終わり、一同は男の寝ている部屋の戸の前で

固唾を飲み込む。

「では、ゆくぞ」

「おう」

 音を立てないようにスっとふすまを握りこぶし程度ほど開け

買ってきた饅頭を20個あまり放り込んだ。

 男たちはニヤニヤとそれぞれに笑みを浮かべ、起こるであろう絶叫を

心待ちにしている。

「これは饅頭ではないか!」

 中から男の声が聞こえると、男たちはいたずらが成功した子供のように笑い

部屋の中をそっと覗き込んだ。



「怖いから食べちまおう。ああ、旨くて怖い」

 だが、予想とはまったく違った表情で

男はその饅頭を食らっていた。

 どんどん口の中に放り込み、あっという間に完食してしまう。

 満足そうな笑顔で腹をさすりごろんと寝転がる。



 男たちはまんまとだまされたのだ。



「だっ、だましおったな!」

「好物ではないか!」

「金を返せ!」

やんややんやと文句を言う男たちに

部屋の主はげっぷを一つ吐いてからこう答えた。





「今度は濃いお茶が怖い」